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連載・地殻変動する国際エネルギー資源業界


           大阪商業大学総合経営学部教授・経済学博士・中津孝司
 




  

 
   

焦るのも無理はない。サウジアラビアは自他ともに認める石油輸出国機構(OPEC)の盟主であるにもかかわらず、OPECが組織として機能不全に陥っている。OPECの本質は価格カルテル。産油量を調節することで国際原油価格の形成に多大な影響力を行使してきた。その中心的役割を演じたのが原油生産余力で世界屈指を誇るサウジアラビア自身だった。しかし、原油価格が安値圏で推移する今、生産余力は無用の長物。もって価格カルテルとしてのOPECは存在意義を失った。

OPECは内部分裂状態。焦るサウジアラビアを横目に、イラクやイランは原油増産に熱を上げる。産油量を日量400万バレルに膨らませたイラクは安値攻勢を仕掛ける。そうなると、協調減産など望めるはずもない。その一方で、非OPEC加盟産油国が台頭。米国を筆頭に、フリーハンドの産油国が勝手気ままに振る舞う。まさに八方塞。原油輸出市場でサウジアラビアがシェアを落とすのは当然の帰結なのかもしれない。

 
 主要市場でシェアを落とすサウジアラビア(%)
 
 
(出所) 『日本経済新聞』2016年4月20日号,Financial Times, March 29, 2016より作成。

サウジアラビアが原油輸出量で世界首位という事実にいささかの変化もない。だが、市場占有率の低下が極端なのである。産油量が格段に増強されたとはいえ、米国は今もってサウジアラビアから大量の原油を輸入する。米国内の製油所ではサウジアラビア産などの重質油が適合する。米国産のシェールオイルは軽質油であるため、既存の製油所では歓迎されない。それでもサウジアラビアのシェアが低下しているのである。

中国でも同様だ。原油価格の低迷に中国国内の石油企業ですら悲鳴を上げる。国産よりも輸入原油のほうが割安だということも手伝って、中国の原油輸入量は一向に衰えていない(原油輸入量は2015年実績で日量650万バレルと対前年比19%増)。中国には近隣のロシアや中央アジアから潤沢な原油が流入する。

中国でのロシア産原油のシェアは12.6%に拡大している(2015年実績)(1)。中国のロシアからの原油輸入量は2016年5月実績で524万5,000トン(日量124万バレル)と対前年同月比33.7%増と過去最高を記録した。一方、サウジアラビアからの輸入量は日量96万1,000バレルと、サウジアラビアがシェアを落としている。非OPEC産油国がサウジアラビアを苦しめる構図だ。

上表では欠落しているものの、南アフリカでのシェア低下も劇的。2013年の53%から2015年には22%へと急落している。ナイジェリアやアンゴラといったアフリカを代表する産油国が対南アフリカ輸出に励んだからに他ならない(2)

サウジアラビアの国営石油会社で石油産業を独占するサウジアラムコは確かに無借金経営を貫いてきている。雇用者数が6万5,000人に達するサウジアラビアを代表する大企業である。その最高経営責任者(CEO)はアミン・ナセルが務める。

サウジアラムコは油田開発・原油生産といった上流部門だけでなく、製油所や石油化学部門といった下流への参入も果たしてきた。石油製品の生産増強で2015年は日量100万バレル増を記録、製油能力を年間で日量1,000万バレルに倍増する計画も掲げられている。原油輸出先で製油所を建設し、その運営にも携わっている。事実、ナセルCEOは石油タンカーやリグを建造し、港湾を建設すると同時に、エンジンも製造すると明言する(3)

しかしながら、原油安がサウジアラムコの経営を圧迫、財務状況は急速に悪化してきた。言うまでもなく、サウジアラムコとサウジアラビア政府は運命共同体。サウジアラムコの経営悪化はサウジアラビアの財政を直撃する。2016年の財政赤字は870億ドルと試算される。

サウジアラビアの外貨準備金は2014年の7,370億ドルから2015年には6,400億ドルに減少したが、財政赤字を補填せざるを得ない。公的債務は2014年末の対国内総生産(GDP)比1.6%から2020年には50%へと拡大すると見通されている。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はサウジアラビアの格付けをダブルAマイナスからAプラスに(4)、同じくムーディーズ・インベスターズ・サービスもA1に1段階引き下げている(5)

 
   

在任期間が20年に及んだヌアイミ石油鉱物資源相が突如、解任された。その後任にはムハンマド副皇太子のインナーサークル、側近であるハリド・ファリハ保健相が起用された。この人事にサプライズはないが、ムハンマド副皇太子の台頭に象徴されるように、サウジアラビアでは新世代へのバトンタッチが目立つ。世代交代が新陳代謝を促すのか(6)

石油鉱物資源省はエネルギー産業鉱物資源省と改称され、ファリハはエネルギー産業鉱物資源相とサウジアラムコ会長を兼務する。早速、市場シェア維持を最優先する方針を表明、原油増産も辞さない構えを示した。ライバル国、ことにイランと全面対決する姿勢を鮮明にしている(7)。サウジアラビアはOPECの盟主として、新たなOPECの存在理由を模索せざるを得ない(8)。イランと対立しつつ、不協和音が目立つOPECを修復できるのか

行革ではまた、水利電力省は廃止され、エネルギー産業鉱物資源省に吸収された。エネルギー産業鉱物資源省はサウジアラビア経済の53%を所管することになる。省庁再編では商工省が商業投資省に、農業省が環境水利農業省にそれぞれ改変され、労働省と社会問題省は統合される。

行政改革は整然と進むだろう。だが、旧世代、抵抗勢力の既得権益に抵触するやいなや、改革は頓挫する可能性がある。壁を打ち破ることはできるのか。政治改革、すなわち絶対君主制から議会制民主主義体制への移行なくして真の改革はありえない。これは副皇太子の立場を危うくすることと同義だ。その勇気があるのか、ないのか。結局はそこへ行き着くことになる。

「ビジョン2030」が示され、行政改革の第一歩を踏み出したサウジアラビア。脱石油依存への道は明らかにサウジアラビアのポスト石油経済へと向かう新秩序への道程ではある(9)。サウジアラムコのナセルCEOが指摘するように、経済構造の多角化の核心はサウジアラムコにある。つまりサウジアラムコの民営化プロセスが変革のリトマス試験紙となる。

合わせて、サウジアラビア政府は「国家変革計画2020」も公表している。2020年までに非石油収入を1,635億リヤルから5,300億リヤルへと3倍以上に増やし、かつ民間部門で45万人の新規雇用を創出する、その一方で歳出に占める公務員給与のシェアを45%から40%に抑制するという具体的な数値目標も打ち出された。付加価値税(VAT)の導入や水道・電気料金補助金の削減で財源を捻出する。非石油部門の輸出額を1,850億リヤルから3,300億リヤルに拡大する目標も掲げられている(10)

もう一つ。経済変革には外国資本は不可欠。規制撤廃と外資誘致を同時進行させていくべきだろう。米ゼネラル・エレクトリック(GE)が再生エネルギーや水処理、それに航空といった分野に14億ドルを投下するという(11)。具体的にはGEとサウジアラムコなどとエネルギー・海洋関連の工場を建設、雇用の創出に貢献する。今後、日系企業の商機拡大も見込める。

逆に、サウジアラビア公共投資ファンド(PIF)から出資を受ける米企業もある。PIFが米配車サービス最大手のウーバーテクノロジーズ(サンフランシスコ)に35億ドルを出資、5%の株式を取得する。PIFを軸とする収益源多様化の具体的な案件と位置づけられる(12)

問題は経済効率。生産性を改善しないとサウジアラビア経済は再建できない。サウジアラビアでは政治改革にも通じる問題でもある。これはどうしても不確実性を醸成してしまう。投資家の一部はサウジアラビア経済の脱石油宣言に懐疑的であることをあえて付言しておきたい。代替策が不在のなか、茨の道であることは間違いがない。

ホワイトハウスはサウジアラビアを見限り始めている。追い詰められたサウジアラビアは対米関係を修復しようと、米国資本を受け入れる方針に転換した。サウジアラビアの石油政策、脱石油路線は詰まるところ、対米関係の行方に如実に投映されていく。

 

(1)『日本経済新聞』2016年4月20日号。

(2) Financial Times, March 29, 2016.

(3) Financial Times, May 19, 2016.

(4) Financial Times, February 3, 2016.

(5)『日本経済新聞』2016年6月8日号。

(6) Financial Times, May 10, 2016.

(7)『日本経済新聞』2016年5月9日号、『日本経済新聞』2016年5月12日号。

    Financial Times, May 11, 2016.

(8) Financial Times, June 4, 5, 2016.

(9) Financial Times, May 9, 2016.

(10)『日本経済新聞』2016年6月8日号。

(11)『日本経済新聞』2016年5月24日号。

(12)『日本経済新聞』2016年6月2日号。Financial Times, June 3, 2016.

 


  

前回(「第2回 凋落する石油王国・サウジアラビア(1)」)はこちら

  「第1回 原価価格変動の新メカニズム」はこちら
   
 







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