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連載・地殻変動する国際エネルギー資源業界


           大阪商業大学総合経営学部教授・経済学博士・中津孝司
 




  

 
   

貧すれば鈍する。当然のことながら,原油安は石油企業に打撃を与える。ロシア石油最大手のロスネフチでさえ例外ではない。ロスネフチの2015年実績を見ると,純利益はルーブル建てでは対前年比2%のプラスを確保したが,ドル建てでは61億ドルと同じくマイナス34.4%に沈んだ(1)。原油の国際価格下落に直撃された格好だ。

かつては小さな田舎企業に過ぎなかったロスネフチだが,ロシアの民間石油企業ユーコスを吸収して以降,飛躍的な成長を遂げた。油田の開発から,原油生産,流通,石油製品の製造・販売までを手広く手がけ,川上から川下に至る垂直統合型の経営形態を確立した。加えて,プーチン大統領の盟友であるイーゴリ・セチン氏がロスネフチの社長に就任したことで,積極的なM&A(合併・買収)に打って出る。

英系国際石油資本(メジャー)のBPとロシアのチュメニ石油とが折半出資で創設した合弁石油企業TNK-BPに買収攻勢を仕掛け,2013年に550億ドルで傘下に収めた。ユーコスとTNK-BPの吸収によりロスネフチの原油埋蔵量は急拡大,一気に世界屈指の石油企業に躍り出る。セチン社長はこの世の春を謳歌したことだろう。

しかしながら,驕る平家は久しからず。国際原油価格が急降下すると,逆噴射が発生。さらに,ウクライナ領・クリミア半島強制編入に伴うロシア経済制裁という逆風にさらされる。パートナーとして頼りにしていたエクソンモービルなどの外資系石油企業はロシアを見限り,撤退した。

無理なM&A戦略が仇となり,ロスネフチは借金漬けの巨大企業に成り果てた。その借金とはドル建てである。ルーブル安局面ではドル建て債務が膨張する。ロスネフチは借金で首が回らなくなった。

ロスネフチ株を69.5%保有するロシア政府に融資を願い出るが,ロシアの国庫も非常事態。ロスネフチに回せる金がない。セチン社長とプーチン大統領の間にすきま風が吹く。こうなると,経費の削減を徹底し,投資を先送りせざるを得ない。

資金を確保するには前払い契約や資産売却しか手立てはない。にもかかわらず,最近でもロシア石油第6位のバシュネフチ買収に意欲を示している。バシュネフチ買収でロスネフチはロシア産油量の過半を牛耳れる。バシュネフチの産油量は2010年以降,55%も増加,日量42万4,000バレルにおよぶ。優良企業と診断できるだろう。ロスネフチはこの優良企業買収で資産増を狙う(2)。

ロスネフチによる原油輸出の3割を占める買い手が資源商社のトラフィギュラ。トラフィギュラは日量50万バレルの原油を買い取り,前払いしている。トラフィギュラがロスネフチの資金繰りを支える構図だ(3)。

東シベリア油田地帯の一角を占めるロシア有数のバンコール油田。本来ならば,ロスネフチが単独で油田を開発するが,金欠で油田開発に着手できない。困り果てたロスネフチはインドに泣きつく。セチン社長が直々にインドの首都ニューデリーを訪問,権益譲渡契約でインド側と合意した。実は当初,ロスネフチは中国に打診,譲渡交渉を進めていた。ところが,最終合意に至らず,ロスネフチは中国を見限り,インドに流れた。

ロスネフチはバンコール油田の権益23.9%をオイル・インディア,インド・オイル,バラト・ペトロリソーシズから成るコンソーシアムに売却する段取りになった。また,インド国営石油天然ガス公社(ONGC)の外国投資子会社にも15−26%の権益が売却されるという(権益15%の売却の場合は13億ドル程度)。さらに3社連合(コンソーシアム)にはロスネフチの子会社で東シベリアの油田・天然ガス田を操業するタース・ユリアの権益29.9%も売却される。これは2015年にBPに権益20%が7億5,000万ドルで売却される予定だった。だが,例の経済制裁で白紙撤回された経緯がある(4)。

バンコール油田の権益売却はロシアとインドによるエネルギー協力の転換点となる。ロスネフチはベトナムに進出,同社にとって初の外国オフショア(海底)開発に乗り出す。ベトナム南部の沖合にあるオフショア油田開発には国営のペトロベトナムのほか,ONGCも参加,合弁企業が設立される(5)。ロスネフチがインド企業を頼りにしていることがわかる。

対米牽制では中露両国は常に意気投合する。また,ロシア産の原油がパイプラインで間断なく中国に供給されていることも事実である。しかし,中露両国が蜜月関係にあるとは決して診断できない。見せかけとは裏腹に中国とロシアとはライバル関係にある。ロシアは資金の拠出を渋る中国に愛想を尽かしている。

すきま風が吹く中,2016年6月25日,ロスネフチと中国石油化工(シノペック)が東シベリアに天然ガス加工と石油化学のコンプレックスを共同建設する合意を交わした(6)。今後,事前調査が実施され,最終合意が得られれば,2017年中には合弁企業が創設される運びとなる。ただ,首尾良く最終合意に至るかどうかは予断を許さない。

ロスネフチにとって厳しい日々はこれからも続く。

 
 
   

原油輸出と同様に,ガスプロムの主要輸出市場は欧州諸国。しかし,欧州地域は英国の欧州連合(EU)離脱問題や難民危機,それにトルコの軍事クーデター未遂問題などで落ち着かない。加えて,欧州のガス市場はほぼ飽和状態で新規開拓の余地は限られている。さらに,カスピ海産の天然ガスを欧州に輸出する巨大プロジェクトも始動。2020年にはこのロシア迂回ルートで年間100億立方メートルの天然ガスが欧州市場に供給される。欧州は今,エネルギーの脱ロシア依存に取り組む最中だ(7)

 
 図表 ガスプロムのキャッシュ・フロー
(出所)Financial Times, May 23, 2016

ソ連邦時代からの親方赤旗的な体質で予算制約はかなりソフト。それでもロシアを取り巻く外部環境がガスプロムも追い詰める。2016年には営業利益が減少し,フリー・キャッシュフローが枯渇する(図表参照)。株価は2008年以来,ドル建てで86%も低下した。国際ガス価格も2014年以降の2年間で2分の1に下落し,ガスプロムを苦しめる(8) 。ガスプロムの純債務は2015年末時点で290億ドルに達する。

ガスプロムとしては,欧州以外の新規市場を開拓して起死回生を図らなければならない。その有望な市場が中国。ロシア産の天然ガスをパイプラインで中国市場に輸出する事業が脚光を浴びる。

しかし,中国ガス需要の伸び率が低下していること,それに,米国産などの液化天然ガス(LNG)生産量が世界的に膨張している,すなわち代替エネルギー源が多様化していることで,ガスプロムが投資を大幅に圧縮せざるを得なくなり,中国向けの天然ガスパイプライン建設計画が凍結されてしまった。東シベリアでの天然ガス田開発についても先送りを余儀なくされている。

身動きが取れないガスプロム。今後,ガスプロムはクレムリン(ロシア大統領府)主導による企業解体に身構えることになるのかもしれない。

 

(1) Financial Times, April 1, 2016.

(2) Financial Times, July 27, 2016.

(3) 『日本経済新聞』2016年4月16日号。

(4) Financial Times, March 17, 2016. 『日本経済新聞』2016年4月10日号。

(5) Financial Times, March 7, 2016.

(6) Oil & Gas Journal, July 4, 2016, p.10

(7) 『日本経済新聞』2016年5月19日号。

(8) Financial Times, May 23, 2016.

 


  

前回(「第4回 窮地に追い込まれるロシアの石油・天然ガス産業(1)」)はこちら

「第3回 凋落する石油王国・サウジアラビア(2)」はこちら

「第2回 凋落する石油王国・サウジアラビア(1)」はこちら

「第1回 原価価格変動の新メカニズム」はこちら
   
 







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