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連載・地殻変動する国際エネルギー資源業界


           大阪商業大学総合経営学部教授・経済学博士・中津孝司
 




  

 
   

古今東西、産油国は国際原油価格の動向に翻弄される。原油価格が高値圏で推移している場合は問題ない。悲惨なのは低空飛行を続ける原油安局面だ。往々にして産油国は外貨収入を原油輸出に全面依存する。原油の輸出収入が貿易収支や財政収支の黒字化に寄与。オイルマネーは経済の隅々にまで浸透し、国民生活を支える。それゆえにオイルマネーが枯渇すると、逆噴射現象が発生。産油国経済はたちどころに行き詰ってしまう。

中東の産油国を代表するサウジアラビアは石油王国と形容される。なぜか。サウジアラビアの政治体制は国王が君臨する、時代錯誤の絶対君主制。そして世界最大の原油輸出国。産油能力は日量1,150万バレルに達する。

政府歳入の73%を原油輸出、90%以上を化石燃料に依存するだけに、不動とされていた石油王国が原油安に揺さぶられる。2016年予算では3,262億リヤル(9兆7,000億円)の財政赤字、対国内総生産(GDP)比19%の赤字が見込まれている。債権国から債務国に転落したことを受けて、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はサウジアラビアの格付けを2段階引き下げた。

原油安で歳入が細る一方で、イエメン内戦に軍事介入。この戦費が国庫の重荷となる。2016年1月に断交し、ペルシャ湾を挟んで睨み合うイスラム教・シーア派のイランと鋭く対立。イエメン内戦、シリア内戦はサウジアラビアとイランの代理戦争の様相も呈する。そのために政府歳出の4分の1を占有する軍事・治安費を切り詰められないでいる(1)。財政赤字に転落するのは当然の帰結だ。2015年の経常収支はすでに赤字転落している。

財政赤字を補填するには外貨準備金を取り崩すか、外国から資金を調達するか、補助金を削減し、増税に踏み切るか。その手段は限られる。サウジアラビア政府は2018年に付加価値税(VAT)を導入する準備に入ったという(2)

外貨準備金は2016年2月段階で2兆2,224億リヤル、対前年同月比で17%も減少した(2015年末時点では6,164億ドル、対前年比16%減(3))。資金調達については、1991年以来25年ぶり(ペルシャ湾岸戦争で10億ドルを起債した経緯がある)に国際銀行団から100億ドルの融資を受ける。三菱東京UFJ銀行、英HSBC、米JPモルガン・チェースなどが融資するという(4)。また、サウジアラビア政府は外国市場で国債も発行する予定でいる。

 
 原油価格の推移とサウジアラビアの経済指標
(出所)『日本経済新聞』2016年4月26日号。

 
   

財政赤字に転落した石油王国がここにきて脱原油を内外に宣言。経済構造の多様化を狙う、大胆な経済変革構想「ビジョン2030」を打ち出した(5)。ここでは油価1バレル30ドルが想定されている。原油に代わる収入源は2兆ドルという世界最大規模を誇る政府系ファンド(SWF)のパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)。国際金融界の一大勢力となる可能性が秘められている。

構想の目玉の一つが世界最大の石油企業・国営サウジアラムコの新規株式公開(IPO)。発行済み株式5%未満が上場され、株式時価総額2兆ドルが見込まれている。サウジアラムコは持ち株会社に転換され、サウジアラムコ株を含む政府保有資産はPIFに移管・管理される。PIFは現在、サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)などの株式を保有する。IPO案件はさらに続く。軍事産業を傘下に置く政府全額出資の持ち株会社が創設され、サウジアラビア証券取引所に上場される計画も同時に表明された。

非石油部門からの政府歳入を2030年までに1兆リヤルにまで積み上げると同時に、GDP(6)に占める民間部門の比率を現在の40%から65%に引き上げるという具体的な数値目標も明記されている。また、中小企業の対GDP比を20%から35%に引き上げ、その育成に力を注ぐ姿勢も示された。

人口2,800万人のサウジアラビアではその増加率が高く、30歳以下の若年層が3分の1を占める(7)。当然、若年層の雇用拡大が喫緊の経済課題となる。そこで、変革構想では雇用の創出にも言及、2020年までに100万人の雇用を追加するとした。失業率を現在の11.6%から7%に引き下げる目標が掲げられる一方、女性の労働参加率の向上も目指す。

他方、外国人労働者には5年以内にグリーンカードを発行すると言明されている。イスラム観光業を拡大し、サウジアラビアを国際物流のハブとする機能を高め、経済特区を創設することで新たな雇用を創出していく構えだ。

合わせて、外国資本を重視する方針も描かれ、外国直接投資(FDI)の対GDP比を3.8%から5.7%に拡充することとなった。

要するに、サウジアラビアが石油王国としてではなく、産業立国によって経済を再構築していく構想であることがわかる。その旗振り役がムハンマド副皇太子。ムハンマド指揮官の野望が成功するかどうかは抵抗勢力を打ち砕けるか否かにかかっている。ただ、サウジアラビアが石油に依存できる時代は終幕を迎えたことだけは確かである。

 
   

「ビジョン2030」を意気揚々と発表した人物は、強大な権力を誇示する若干30歳のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子。サルマン国王の子息にして王位継承順位第2位、国防相と対外経済相も兼務する。経済政策の意思決定機関トップとして経済変革構想を主導。当然、石油産業部門についても口を挟む。石油鉱物資源相として21年間在任したアリ・ヌアイミ氏を凌ぐ存在に登り詰めている。事実、ヌアイミ氏は石油鉱物相辞任に追い込まれた。ムハンマド副皇太子が名実ともにサウジアラビア・エネルギー政策の中心人物に躍り出た。

2016年4月17日、産油国の石油部門トップがカタールの首都ドーハに集結した。産油国サミットの主要議題は原油生産量の凍結問題。ドーハ会議で産油量の凍結が決議されるはずだった。ところがムハンマド副皇太子から一本の電話が入る。イランがサミットに参加していないことを根拠に凍結合意を拒否するという。この鶴の一言でドーハ会議は決裂、凍結合意に至らなかった。ロシアのノワク・エネルギー相はイランが当初から凍結交渉に参加していないにもかかわらず、イランの不参加を理由に合意を拒否することは不合理だと不満をあらわにした(8)。ムハンマド副皇太子がさまざまな場面で石油をイラン対決の道具にしていることは明白だ。

確かにサウジアラムコは無借金経営を貫徹する優良企業かもしれない。しかし、イランが原油増産姿勢を強める一方、ロシアとイラクは攻勢を仕掛ける。結果として、サウジアラビアの原油輸出市場シェアは低下の一途。著しいシェア低下を下流部門への参入、石油製品の生産増や輸出先での製油所経営で挽回しようと躍起になっている(9)

サウジアラビアはシェア奪還と経済変革の二兎を追えるか。当分の間はムハンマド副皇太子の手腕が問われそうである。

 

(1) 『日本経済新聞』2016年3月27日号。

(2) 『日本経済新聞』2016年3月17日号。

(3) 『日本経済新聞』2016年3月1日号。

(4) 『日本経済新聞』2016年4月21日号。Financial Times, April 20, 2016.

(5) 『日本経済新聞』2016年4月26日号。Financial Times, April 26, 2016.

(6) サウジアラビアの国内総生産(GDP)に占める部門別比率は次のとおり。

    石油部門44.2%、民間非石油部門39%、政府非石油部門16.8%(Financial

    Times, April26, 2016)。つまり石油産業部門以外の政府歳入寄与度が

    極端に低いことがわかる。

(7) Financial Times, May 19, 2016.

(8) Financial Times, April 19, 2016.

(9) Financial Times, March 29, 2016.

 


  

前回(「第1回 原価価格変動の新メカニズム」)はこちら
   
 







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