今のロシアでは問題が山積して,身動きが取れない状況となっている。クリミア半島争奪の懲罰として,欧米社会から制裁が突きつけられている。クレムリン(ロシア大統領府)がクリミア半島をウクライナに返還しない限り,制裁が解除されることはない。
ロシアからはマネーが流出,通貨ルーブル売りに拍車がかかると同時に,株安,債券安も同時進行する。ロシア中央銀行は主要政策金利を7.50%に引き上げたけれども,ルーブル相場は安値圏から脱却できず,2018年10月時点でも1米ドル66ルーブル前後で推移する(3)。
ロシア経済は依然として脆弱で,事実上の金融危機に見舞われている。2018年第1・四半期の経済成長率は僅か1.3%,同第2・四半期は1.9%に留まり,プーチン政権最後の年となる2024年の経済見通しでも1.5%と予想されている。ソ連邦時代のブレジネフ長期政権以来の経済停滞で,その原因の一つがロシア政府による執拗な企業家に対する嫌がらせや逮捕だとする見解もある。経済犯罪も後を絶たない(4)。
加えて,ここにきて年金問題が噴出してきた。低成長に喘ぐロシアにとって,構造問題にメスを入れることは当然の取り組みである。年金問題もその中の一つ。ロシアでも少子高齢化が進行,労働人口が減少する一方,引退する高齢者が激増し,年金支給のための財源確保が課題となっている。
ところが,ロシア政府側が国民に提示した年金改革案(受給開始年齢を2019年から段階的に引き上げ,女性は55歳から63歳,男性は60歳から65歳に引き上げ)が不評で,支持率が急降下。国民の反発で3人の現職知事が敗北に追い込まれた(5)。ロシア政府はやむなく女性の受給開始年齢を政府案の63歳から60歳に下方修正した(6)。
また,ロシア政府は金属・鉱業に対して75億ドルの増税を検討しているとされる(7)。制裁が原因で財政が悪化していることに危機感を抱いている証左である。
北海道北部に広がるサハリン。ここでロシア国営石油最大手ロスネフチが関与する国際資源開発プロジェクトの「サハリン1」が展開されている。米系国際石油資本(メジャー)・エクソンモービルの子会社と日本の官民が出資するサハリン石油ガス開発(SODECO)が30%ずつ,インド石油天然ガス公社(ONGC)が20%,ロスネフチの子会社2社が20%の権益を保有する。この共同事業をめぐって,ロスネフチ側が参加企業5社に対して提訴,5社側は2億3,000万ドルを支払うことになった(8)。また,ロシアは北方領土で軍事演習を繰り返す。
ロシア政府は日本に好意的なシグナルを一切送っていない。友好ムードも信頼関係も醸成されていないのである。日本はこの現実を直視し,ロシアを戦略的に利用する外交姿勢に一刻も早く転換していくべきだろう。日本の国益は損なわれていく一方である。