軍事クーデター未遂事件が勃発したトルコのイスタンブールで2016年10月10日,世界エネルギー会議が開催された。その席上,ロシアのプーチン大統領は石油輸出国機構(OPEC)の減産に加わる用意があると表明,ロシアが増産凍結や減産に応じる可能性を示唆した(1)。しかし,その直後には減産は必要ないと明言,増産凍結に絞り込む意向を鮮明にしている(2)。
言うまでもなく,ロシアはOPECに加盟していない。OPEC非加盟国であることを武器に,ロシアはむしろOPECへの対抗姿勢を強めて,原油増産に傾倒してきた。ロシアはOPEC側に協力する意思を伝えてはいるが,本当に翻意したのか。ロシアはOPECとの原油生産調整に向けて協調するのか。
世界エネルギー会議の直前,OPECは北アフリカのアルジェリアで臨時総会を開催,原油生産量を日量3,250万〜3,300万バレルに制限することで合意していた。OPECは8年ぶりに減産する方針に転換した。OPECのバルキンド事務局長はOPECとOPEC非加盟国とによる生産抑制をめぐる協議で,6カ月後に条件を見直すことを前提に生産協調の可能性を探っていると言明している(3)。
国際原油市場では長年,OPECによる価格支配が続いていた。ところが,米国でのいわゆる「シェール革命」の影響で,米国が新たなプレーヤーとして台頭,産油国としてにわかにプレゼンスを誇示するようになった。米国の産油量が激増,原油輸出を解禁したことで,石油貿易の世界地図が大きく塗り替えられたのである。
一大産油国としての米国台頭でOPECは劣勢に立たされる。窮地に追い込まれたOPECは原油価格の操縦を断念,輸出シェアを優先する姿勢を鮮明にした。当然,国際原油価格は急落し,今日の原油安を招く羽目となった。原油安でOPEC加盟国を筆頭に世界の産油国は石油収入の激減に直面,サウジアラビアやロシアはついに財政の赤字転落を余儀なくされた。
OPECは指摘するまでもなく,価格カルテルである。産油量を調整することで原油価格を自由自在に操ってきたという自負心がOPECにはある。ところが,世界石油貿易の激変によってOPECは価格カルテル機能を放棄,輸出市場シェア優先主義に大転換した。その副作用が原油安であることは周知のとおりである。
しかし,産油国は往々にして,原油依存体質から容易には脱却できない。米国が産油国として台頭してきたとはいえ,産業構造はすでに多様化している。急ピッチで伝統的産業からIT(情報技術)産業や最先端技術産業へのシフトも同時進行している。斜陽産業ばかりに依存する産油国とは決定的に違う。
原油価格が急落して窮地に立たされるのは米国ではなく,ロシアやOPEC。事実,ロシアやサウジアラビアの経済は崩壊寸前に追い込まれている。原油安を放置することは自らの首を絞めることと同義。輸出市場シェア拡大路線を放棄して,原油価格下支え戦略に切り替えざるを得なかった。
OPEC加盟14カ国の産油量は足元では日量3,339万バレル程度(2016年9月実績)で過去最高水準を記録(図表1参照)。一方,ロシアの場合は同じく1,100万バレル。ここに米国の同1,200万バレルが上積みされる。世界経済が低空飛行を続ける今日,原油消費量が劇的に増えることは想定しにくい。需給バランスを回復させるには,OPECは原油減産に踏み切らざるを得なかったのである。それでも,原油の世界供給過剰は日量100万バレルであることから(4),本格的な油価反発には同じ水準以上の減産が必要となる。OPEC単独の減産では価格の急反発は実現しない。